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飛鳥京香「日本人の時代ージャップスデイズ」

飛鳥京香「日本人の時代ージャップスデイズ」

ジャップス=デイズ日本人の日々■第3回

ジャップス=デイズ日本人の日々■第3回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
第3回

彼女が部屋を出ていった後、ケンはバルボア博士に尋ねる。
 「博士、日本人狩りの話は本当なんてすか」
 「ケン、残念ながら事実だ。いや、もっと事態は悪いかもしれない」
 「と言いますと」
 「この音源は、私の研究所が宇宙空間に打上げているサテライト
が偶然に録音したものだ。まあ、聞いてくれたまえ」
 バルボアは録音音源のスイッチをいれる。
二人の会話だった。

『それじゃ、君、6月1日を持ってプランを発動させることに、ほ
ぼOKがでたんだね』
『私の感触ではそうだ。ヨーロッパ連合の上層部のラインでもおお
よそOKがでている」
 『それで、アジア地域ではどんな感触なんだね』
 『中国と韓国が、やや難色をしめしている。それに東南アジア各国
も、もし、日本を占領するつもりなら、自国軍隊も参加させてほし
いという事を裏ルートで言ってきている』
 『で、イスラム国圏はどうだね』
 『やや、むつかしいところだ。彼らは傍観するだろう。そして、もしな
んらかの利益があるとするならば参加させてくれというに違いない』
 『アフリカと中南米は』
 『問題外だ。彼らは自国の事で手一杯だろう。が、旧宗主国の方か
らネジをまかせるから、そちら方面はたぶんOKだ』
 『じゃ、日本人は、このプランが発動すると、世界中の孤児だとい
う事がわかるわけか』
 『そういう事だ。自分達が世界中からどれだけ嫌われていたかよI
くわかるわけだよ』
 『それでAプランでいくのかね、Bプランでいくのかね』
 『その辺はまだはっきりはしない。日本と同じ目にあうのではと思
う国があるだろう。だから、当面は、穏便なAプランで行くだろう。
時機を見て、Bプランにシフトさせればいいだろう』
 『そういう事だな。とすればAプラン=占領プランのマップはどう
なっている』
『そう、ほばできつつある。これは第二次大戦を思わせるな』
『つまりはあの時機にジャップ共をギャフンといわせておけばよか
ったんだよ、キーン』
『おい、私の名前を出すな。盗聴されていたらどうするんだ』
『すまん、ラインをもう切る』
『OK、じゃ、また、あの場所で』


 音源は途中でとぎれた。
「こういう音源なんだ」
 バルボアは機械の再生を切り、ケンの方を見た。ケンの体は
こわばっている。

「先生、これは悪い冗談でしょう」
 ケンはようやく、これだけのフレーズを胸から押し出していた。
「冗談だと言って下さいよ」

 バルボアとジュンはとまどいの表情を見せている。
「本当なんてすか」
 ケンはひざをおとし、床の上に両手をついた。
「なぜなんですか、なぜ日本が」

「ケン、私は、このテープを聞いたあと、政府筋に探りをいれてみ
た。しかし、恐るべき事に、彼らはすべて、この件に関してはノー
コメントと言った。さらに逆にその件をどこで知ったのかと聞かれ
た。ケン、日本抹殺プランの可能性はほぼ100%だ。これはトップシ
ークレットだ」

 「パパ、どうにかならないの。一国が抹殺されてしまうなんて」
 
「いいかね、ジュン、それにケンも聞いてほしい。君達もハイスク
ールで習ったと思うが、地球の人類発生後の歴史という物は、国の
興亡史だ。いかなる国も永遠の生命を持つ事はできん。さらに過去
に幾多の民族が地球上から消え去っている」

 「しかし、先生、今は21世紀半ばなんですよ」
 ケンがくぐもった声でいう。
 
「ケン、日本人は世界じゅうから嫌われたのだよ。アローガント(傲
慢な)ジャップとしてな。それに現在の世界情勢が、噴罪の羊スケ
ープゴーツ、を求めたんだよ。どこかの国が、世界じゅうのうらみ
を一身にうけて滅んでいくわけだ」

 「この事を日本の領事館へ知らせます」
 「無駄な事だと思う。が君の気の済むようにしたまえ」
 「ジュン、気をつけてね」
 ケンは、今、立っている大地が崩れおちそうな気がした。
うそだろう。
うそに違いない。
そうあってほしい。
彼は日本に住んでいる両親と妹の事を考えた。
一体、この世の中は、世界は、、どうなってしまったんだ。

 このどこまでも続く青空が作りもののハリボテの様にケンは感じた。
 駐車場の車に乗り、研究所を出る。
ハイウェイヘ出て、日本領事館へ行こうとした。

 こんな事が許されてたまるものか。
とにかく日本政府へ連絡してもらおう。
しかし信じてもらえるだろうか。
気がふれたとしか思われないかもしれない。
 運転しているケンの耳に轟音が響いた。

 何だ。ケンは車を駐車ラインヘ持っていく。
車からおりて、後ろを見た。

煙があがっていた。
バルボア博士の研究所の方だ。
再び轟音が響く。間違いなくバルボア博士の研究所だ。

 ケンは車の流れに逆らって、センタフインを突き切って、逆方
向に乗りかえた。

研究所へ猛スピードでむかう。
 研究所が燃えあがっている。建物の原形はとどめていない。
 「ジュンー 博士!」
 近くで車を止め、ケンは声を限りに叫んでいた。

(続く)
1988年作品 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/


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